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ごあいさつ

 金沢市には二つの、趣の異なる川が流れています。一つは「男川」と呼ばれる犀川、もう一つは「女川」と称される浅野川です。犀川は白山山系の水をたっぷり集め、水量も多く雄大に流れています。一方、浅野川は静かに、町並みの間を抜けるように美しいせせらぎとなって流れています。これらの川に挟まれるように小立野台地が平野部に向かって伸び、その伸びた指の先端に金沢城や兼六園があります。指の根元の部分あるのが、私たちの働く金沢大学附属病院です。浅野川を挟んで向こうには卯辰山が、犀川の向こうには寺町台を望む風光明媚な高台です。

 数十年間に及んだ金沢大学再開発がようやく最終段階を迎え、最後に残された建物に住む私たちも、ようやく来春には引っ越しを迫られています。私自身にとっては、学生時代から慣れ親しんだ古い建物、歩いた方が早いとされるエレベーター、天井の配管がむき出しの暗い地下の廊下などがいずれも離れがたい思い出になっています。
 この数十年の間に医療の中身はずいぶん変わりました。診断や治療の技術が進歩し、患者さんが受ける恩恵は昔と比べて格段の差があります。昔なら亡くすしかなかったこども達が助かるようになりました。一方で、一人一人の患者さんに向き合い、じっくり時間をかけて悩む姿が少なくなってきているのは残念です。「Evidence-Based Medicine」という心地良い響きの言葉に、うっかりするとデータに振り回される診療に陥る危惧を感じています。

 こども達のしぐさ、態度がみせる、すぐに言葉にはできない情報、そしてこども達や家族が自らの言葉で語る病気の歴史、それらから巧みに診断を導きだす「Narrative-Based Medicine」の重要性が再び注目されてきています。ことばを語ることが少ないとされる小児のための医療だからこそ、子どもたちの振る舞いが見せる豊かな情報を医学の言葉で表すために、私たちはせいいっぱいのアンテナを張って待ち構える必要があると感じています。

 医療が進歩し、予防接種の普及によりVPD (vaccine preventable disease)の危惧から小児科医は解放されつつあります。重篤な感染症は減少し、小児科医の仕事が変貌してきました。このような時代であるからこそ、じっくり腰を落ち着け子どもたちを見つめ、家族の語ることばに耳を傾け、知恵を絞ることが大切なのではないかと思います。

 金沢大学小児科では、そのような小児科医を育てたいと願っています。

(平成23年11月改訂)